私たちにはなぜ経営の透明化が必要か −マルチプロダクト企業のKPIマネジメント−

DATAFLUCTは複数のプロダクトに投資して、撤退・ピボット・再投資をおこなっている。フルリモート、業務委託中心組織のスタートアップスタジオからスタートし、今では、マルチプロダクト戦略によるデータサイエンスプラットフォームビジネスを展開している。当然、気になるのが、どうやって管理しているの?ということだろう。

今後、マルチプロダクト戦略にはどんな課題があるのか、どのように解決していくのかを説明したい。(注意:プロダクトを1つしか持たない企業はあまり共感してもらえない内容になっている)

1.なぜ経営の透明化が必要か

元々、私たちは働き方の多様性を大切にしたいと思った。優秀な人と難題を解決していきたいからだ。その結果、業務委託中心の組織ではじまった。

・自律的に、分散的に、力ある人が気持ちよく働ける社会を作りたい。

・いい仕事をすればするほどいい仕事が手に入るようにしたい。

・力ある人が独立するようになり、才能の流動化が起きるようにしたい。

と思って、自分の雇用形態がどうであろうと、優秀な人が集まり活躍できる組織を作りたいと思っていたのだ。起業当時は。

しかし、いろんな人が増えると、(実際に直面した課題といえば・・)

・プロジェクトの進捗がわからない

・お互いのタスクと進捗がメンバー管理で共有できない

・知らないメンバー同士がお互いのバックグラウンドをわからない

・サボっても本業にはバレないし、信頼を持ち歩けない

この方法だとうまくいかないと感じた。

フルリモート×業務委託中心経営が経営の難易度を高めた

実際、社員ゼロの状態が1年半続いたが、大手企業との取引が増えるにつれ、正社員雇用をスタートした。しかし、フルリモート企業であることは変わらなかった。

フルリモートでも・・・

・本当に仕事しているのか見えないし、進捗が見えない。

・稼働時間も正確に測れない。(上場に向けて労務管理の不安・・・)

・当然、顔がみえないので、誰が働いているかわからない。

・ある日突然体調が悪いと言われる

それらを管理するマネージャー(主にはプロダクトマネージャー、プロジェクトマネージャー)は管理工数が膨らんだ。

報告回数を増やすか、1on1を増やすか、リアルで会うなどを考え出す。

その結果、会議が報告中心になり、無駄な会議が増えたりして、リモートワークは生産性が下がっていた。

リモートワーク失敗のメカニズム

フルリモート→生産性低下って多くの企業が陥ってしまうのはここにある。そうやって何も抗わないで、昭和の経営スタイルに戻っていくんだろうな。

でも、私はまだ若い。

世界で最も生産性の高いデータビジネス企業を作りたい。

これくらいの問題はデータサイエンティストとして解決していきたい。

退路を絶ってみた。

・リモートをやめたら、優秀な人獲得が難しい。(DFの経営資源は人)

・監視をしまくると、カルチャーが損なわれる。(マイクロマネジメントは無駄)

・報告して意思決定するプロセスは注意したい。スピード感が損なわれるかもしれない。

フルリモート、業務委託中心だからこそ、生産性の課題が浮き彫りになりやすい。

経営の生産性を、もっと可視化できないだろうか

と、データサイエンティストの私は考える。

フルリモート

→データが蓄積できる。

→統合したら、見えなかったものが見える。

→すぐに手を打てば生産性向上に繋げられる。

そこで、オリジナルのプロジェクト管理システムの開発を進めた。

DATAFLUCT、人的データ統合サービス『inctra』β版の事前登録を8月3日(火)より開始|“人の活動量”を集約し可視化させることでリモート時代の働き方に透明性を。

稼働データとプロジェクトデータと会計データと紐づけて生産性を図る仕組みだ。時給が高い順に生産性が高くなっているか確認できるはずだった。

しかし、ビジネスモデルとして、プロダクトにより投資していく流れに変わっていく。

より大きな問題を抱えるようになる。VCから調達して、会社のステージが変わってき、上場を意識するようになった。

マザーズ上場しても時価総額は上がらない会社が多かったのは、強いプロダクトがないからだ。結局、労働集約型になってしまう。廉価版コンサルファームみたいになってしまう。プロダクトが粗利を生み、ビジネスを持続可能にしていく。だとすると最も大切な数字は「粗利率」だろう。

生産性の結果は粗利率に現れる。

キーエンスやオービックの粗利率が高いのは生産性が高いからだといえるし、エムスリー、インフォマート、弁護士ドットコムなどのマルチプロダクトプラットフォーム企業も、高い粗利率を維持することがビジネスのコアになることがわかった。生産性で勝負するか、プラットフォームビジネスで勝負するか、DFはその両方で勝負する。

要するにガッツリ研究開発を踏んで、自社プロダクトに投資する道を選んだ。

ちなみに、プロダクト=ソフトウェア開発ではない。高い粗利を生み出す再現性のある仕組みである。

DFの場合は、アプリだけじゃなくて、BI、アルゴリズム、プラットフォームなど継続課金につながる、プロダクトが存在しているので、それらを組み合わせて勝負する。

多くの会社はここで失敗している。

改めて、もと問題に立ち戻ろう。

データによって管理面で改善できる余地がどこにあるのか。

ボトルネックは「リアルな動き」が見えないことにあるはず。

プロダクト開発がうまく行っているのかわからない。

エンジニア組織がうまく行っているのかわからない。

TheModel型でセールスを分業したいがうまく行っているかわからない。

要するに、このままプロダクト開発やった先にうまくいくの?

プロダクト開発において少しでも良いシグナル・悪いシグナルが見えたら、会議は減り、意思決定が早くなっていくはずだ。

見えなかったものを見えるようにして無駄な会議を減らし、意思決定が高度化することで生産性は向上する。

2.データ活用がすぐにできないストレス

株主が増えると、より一層、説明責任が必要になってきた。社長として現場から離れるにつれて正しくお金が使われているのか気になってくる。

管理する対象と規模とスピードが段違いになってきた

なるべく早く知りたいし、うまくいかない領域は手を打ったり、ライバルが強すぎる領域は撤退も考えたい。データなしで経営している人たちは本当にすごいな。今の時代、羅針盤だけで意思決定できない。目の前を照らすソナーが必要だ。

経営者は「株主への説明責任」と「メンバーへの説明責任」の両方を実現しなければならない。そこで、経営がうまくいっているかをはかるメトリクスが必要になる。

要するに、

1.MRR(LTV)=未来の続く売上

2.CAC(獲得コスト)=セールス・マーケの課題

3.成長率(改善率)=市場との相性

だ。これらを「予測して」うまくいかないシグナルを察知して手を打つことができたら、良い意思決定ができる。

しかし、それを見るためには、とても時間がかかる。

プロジェクト管理ツールやプロジェクト会計ツールからデータを取ってきて、会計ソフトと付き合わせて、セールスフォースからもデータを取ってきて、顧客からの生々しいFB情報もみて、「予測」したい。

何か良いシグナルはないか。

経営が対処できることはないか。それさえわかれば、前に進める。しかし、見えない。か。

プロダクトマネージャーの性格によってGoodNewsを大きくいうものと、BadNewsを強調するものがいた。定性的な報告(加工されたもの)ってあまり意味がないこともわかった。

本来ならMRRで判断したいが、結果が出るまで時間がかかる。

投資の結果がわかるまで時間がかかる

プロダクト組織のメトリクス=「リアルな動き」であり、チームがうまく行っているかのメトリクスだ。

プロダクトマネージャーに大きな予算を預ける。スピード重視の私たちにはエンパワーメントは大事だ。信頼していないわけじゃないが、「リアルな動き」は経営も知る必要があるのだ。

CEOの思考回路はこんな感じだ。

まずは、CEOはプロダクト投資の見返りに、MRR・CAC・成長率をなるべく早く知りたいと思っている。

そのプロダクトが市場で勝てなければ”早く”撤退したい。プロダクトが勝てるかわからないから、ある程度上限を決めるか、投資し続けてしまうことになる。

市場とプロダクトがフィットしていないのか。あるいは、チームの問題か気になる。このチームで本当にいけるのか。それらを知るために、日々の活動をデータで追いかけたい。

特に知りたいのは、投資からリターンまでの歩留だ。ロジックモデルで、投資したものが未来の売上に繋がっているのか、”早く”知りたい。

ロジックモデルを考えるときに、インプットからアウトカムまでの「時間」に注目しなければならない。十分に時間を掛ければ、振り返りは可能だが、スタートアップは時間との戦いである。「時間」を無視すれば、「失敗するリスク」は莫大になっていく。

1.チームがうまくいっているか。有機的に生産的に働けるまでのリードタイムはどれくらいか。そのお金はどれくらいか。どれくらいのリスクを許容するか。

2.チームがプロダクトに向き合えているか。顧客にあえてフィードバックをもらえているか。チームが同じ方向を向いているか。一人一人の能力を組み合わせて、最善を尽くせているか。

3.プロダクトの方向性が決まったとして、開発組織とうまく連携できているか。設計ミス、テストミス、非機能要件のミスはないか。

4.プロダクトを提供した後の顧客の反応はポジティブか。粘着性・エンゲージメントにどんな影響を与えそうか。

5.顧客フィードバックからバージョンアップができているか

6.期限までにローンチができているか、

7.プロダクトのQCDがうまくいっているか、

8.BtoBビジネスだとした場合に、未来の契約を約束できるか。もっと投資したら、もっと大きな契約規模になるだろうか。次に開発すべき、あるいは、作り直すべきプロダクトは明確になっただろうか。

9.最終的には、「ユニットエコノミクス=LTV(粗利)/CAC」が知りたいが、実数値よりもより正確に予測できているか。

という手順でプロダクトチームを管理したい。それが見えないとリスクが許容できない。

プロダクト中心の企業において、経営から最も見えないのは、エンジニアリングである。お金から最も遠いところである一方で、プロダクト開発組織だと最もお金を使うところで、メトリクスを持ちたいものだ。

3.経営が透明化したとき何ができるか

プロダクト中心経営のコアコンセプトは「透明化」である。「透明化」にはものすごいパワーがある。組織に自信と、力強い意思決定と、スピードと、コミュニケーションの活性化を可能にしてくれる。帰納的に考えても「透明化」が「プロダクトの粗利率」と「組織の生産性」に大きなインパクトを与えるとわかる。

でもやったことがないと、それを信じられないのだ。

私が信じて疑っていないこと

理想のイメージはこんな感じだ。

・チームについては、1on1, 再配置, サポートを入れる、離職を予知などができる。

・プロダクトについては、オンボーディングを強化する、顧客FBの仕組みを入れる、技術調達をする、負債対処する、プロダクトバックログできる。

・プロダクト開発もチームもうまく行っている場合で数字が上がらないのは、市場とFITしていないから、PMFしていないからなので、プロダクト戦略を練り直したり、価格を変えたり、撤退したりする。集客が問題かもしれないので、その場合はトラクションの仕組みを考えたりする。

プロダクト開発の課題がわかれば、経営ボードは手をすぐ打つことができる。

アクショナブルなデータ活用の事例

こういった課題はプロダクトマネージャーチームと経営チームが手を組んで一緒に対処するべきことなのだが、データがないと、経営チームもプロダクトマネージャーもわからないだろう。

4.データ統合で未来のシグナルも見える

さて、アクションできるためのシグナルを見つけたい。データを集めて、統合して、加工しなければならない。

ところが、お金と人とマーケとCSとプロダクト開発とMRR=アウトカムがつながっているデータ基盤が存在していなかった(この経営思想自体がマニアックなのかもしれない)

SaaS化・DWH化・リモート化などのトレンドが急激にきた今こそ、データ統合で多くのシグナルが見られるのになぁ。

例えば、マルチプロダクトじゃなくても、データ駆動経営ができるようになれる。

1.データ統合によって、ロジックモデルが可能になる

バラバラだったデータを統合すると、お金とデリバリー、お金とクオリティなどのプロセスが可視化される。経営のロジックモデルと言えるだろう。QCDのバランスが見えるし、プロセスごとの投資対効果が見えるようになる。投資の失敗と成功が明確にできる。

2.因果が見えれば、計画が作れる

事業計画は鉛筆を舐めなめしなくてよくなる。インプットとアウトプットのデータセットができるので、販促費を投下したらリードが何か月後に集まるとか、営業人員を増やしたら、有効商談がどれくらい増えるなどの計算が可能になる。これがいわゆる、KKDのデータというやつだ。データを活用することで予算作成・予実のズレが解消される。経営企画なら興味があるはずだ。

3.変化を早くに検知でき、早くに対処できる

データを時系列でみることで変化を検知できる。コミュニケーション回数が減っていたり、インタビュー回数が減っていたり、お問合せ件数が減っているシグナルが検知できる。事件は起こるべくして起こることがわかる。予兆はデータで表れている。 変化に敏感になり、早期に対処できるようになろう。

4.投資額の最適化ができる

複数の事業部、ファンクションごとにどのように予算を割り当てるか悩む。メリハリのある投資ができるようなるためには、やはりデータが必要だ。資源の再配置の精度が高まれば、プロダクトごと、部署ごとに、どのように投資すべきかがわかる。あとどれくらい投資していいのか、逆にもっと予算を削るべきなのか傾向値が見える。

上記の概念を統合したものがアクショナブルBIの世界観である。

データ統合と機械学習によって実現できるのだけど、作るのが難しい。

実際DF社内で取り組んでいるのは以下のような指標を見ようとしている。

短期的な目標

これらのメトリクスが見えたならば、意思決定する経営者の仕事はより簡単になるだろう。

マルチプロダクトで自立分散的な拡大を進めるDF社がそこにこだわるのは、将来100名の経営者を生み出さなければならないからである。経営者全員がデータに基づいて意思決定できなければならない。だから仕組み化に情熱を燃やせる。

経営者が結果指標だけで見る会社と、プロセスKPIから予測できる会社とどっちが強いか、圧倒的な生産性の違いが生まれることを見せつけてやりたい。

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DATAFLUCTの経営KPIマネジメントツールがinctraとしてリニューアルしました。他の会社にもお安くご提供できるようになりました。未来予測BIで手を打ちたい経営クラスの方がいらっしゃれば、ぜひディスカッションしたいです。

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久米村隼人 Hayato Kumemura / 株式会社DATAFLUCT 代表取締役CEO

datasciece for everybusiness! a Data Science Startup Studio DATAFLUCT CEO / ex-Nikkei,Recruit,MACROMILL,Benesse,JAXA.